成長し続ける、オフィスの成約賃料予測モデルとは

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こんにちは、estieデータエンジニアのぴーまんです。
食べたものが悪かったのか最近胃腸炎にかかり、まともな食事が取れず5kg痩せてしまいました。現在絶賛失った体重を取り戻し中です。

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飼い主の体重が減った分と同じ体重の愛猫けんたろう

【プロフィール】
宮崎大輝(みやざきだいき、ぴーまん)
1992年大阪府大阪市生まれ。
灘高等学校 -> 東京大学工学部 -> 東京大学大学院工学系研究科

大学ではゼオライトの構造類似性と材料合成条件の類似性との関連に着目した研究に従事。機械学習を用いて類似構造を持つゼオライトの合成条件を探索、機械学習とプログラミングの面白さに触れる。
www.nature.com
大学院では製薬プロセスにおける動物実験代替を目的とした、機械的運動を付加した腸管の生理学的培養デバイスについて研究し、一旦は機械学習やプログラミングの世界から離れる。

大学院修了後はアクセンチュア株式会社に就職し、データサイエンス系の部署へ。学部時代に学んだ機械学習の知見を活かし、製薬業界・インフラ業界でデータサイエンスを用いたコンサルティングを行う中で、データ分析のスキルを高めつつ、ビジネスノウハウを深める。


前回は、最近本格稼働を始めた「medamayaki」という社内ツールについてお話しさせていただきました。
inside.estie.co.jp

今回は私が主に携わっている、「e-賃料」と呼ばれる推定オフィス成約賃料について、ビジネス的観点と技術的観点、双方からお話しします。

e-賃料とは

オフィスの成約賃料は、募集賃料と違って基本的に情報が世の中に公開されていません。一方で、不動産会社が空室を埋めるために新しいテナント募集を行う、または新しい物件を取得する際に必ず調査する重要なものです。estieでは「共益費込み表面成約賃料」の推定値を出しており、これを「e-賃料」と名付け、一つのプロダクトとしてestie proのサービス上で提供しています。(不動産業界では、賃料の調査のために膨大なヒアリングが行われたり、企業によっては飲みの席等で情報交換が行われることもあるんだとか。)

ビジネス的観点

e-賃料の意義

限られた成約賃料のデータから、あらゆる物件の成約賃料を正確に予測することができれば、オフィス不動産業界にとって大きな価値になります。前述したように、成約賃料は不動産会社が新しい空室をテナント募集したり、新しいビルを取得する際に市場調査の根幹として扱われます。この市場調査の業務フローは大まかに以下の通りです。

  • 仲介会社とアポイントを取り、面談
  • 仲介会社とのコミュニケーションを通じて競合となるビルを特定
  • 競合ビルの賃料情報を調べて一覧表を作成

ここでの課題としては、以下の点が挙げられます。

  • 過去数年で取引のない物件については情報が得られない
  • 個別物件レベルでの詳細な成約賃料は守秘義務の関係で取得が困難である
  • 競合物件の指定が主観的・恣意的になる恐れがある(知り得る情報の限定、個人のイメージに引っ張られる等)

これらの課題があることから、オフィス不動産市場において成約賃料の正確な情報を得られることは大きな価値であり、その予測値である「e-賃料」も同様に大きな価値を発揮します。

「e-賃料」はどう使われる?

不動産業界には、様々なプレイヤーがいます。

  • アセットマネージャー(AM)
  • プロパティマネージャー(PM)
  • リーシングマネージャー(LM)
  • エクイティ投資家
  • レンダー
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不動産業界を取り巻くプレイヤー例

上記のようなプレイヤーにとって、「e-賃料」はどのような場面で利用することができるのでしょうか。例えば物件取得や運用を行うAMが、「e-賃料」を物件本来の価値を示す値として利用することで、取得物件の高値掴みを免れたり、逆に適正な値段で売却することができるかもしれません。また個別物件の運営・管理を行うPMでは、より適正な賃料を適時に設定したり、オーナーに対して運営業務の説明を行う際に、レポーティングの材料として使用することも可能です。他にも各プレイヤーによって「e-賃料」のユースケースは多岐に渡り、また今後応用も増えていくと思われます。

さて、ここまで「e-賃料」とは何かというお話しをしてきましたが、ここからは少し技術的な観点で「e-賃料」、つまり推定成約賃料を予測するモデルについてお話ししたいと思います。

技術的観点

一般的な賃料予測モデル

不動産業界における賃料予測には、たびたびヘドニックアプローチという手法が用いられます。これは重回帰分析手法の一種で、予測対象となる賃料を目的変数に、各ビルの立地属性や建物・取引属性を説明変数におき、線形回帰モデルを構築することで賃料を予測します。ただしこのアプローチは説明変数と目的変数との関係が線形であるという仮定の元で行われるため、より細かな立地条件やビルスペックの差異を捉えようとすると限界があります。

決定木をベースとした推定成約賃料予測モデル

推定成約賃料のモデルは教師ありの機械学習モデルであり、決定木をベースにしたモデルを採用しています。決定木とは木構造を用いて回帰や分類を行う機械学習手法で、推定成約賃料モデルでは回帰を行うことで連続値として成約賃料の学習・予測を行っています。上述のヘドニックアプローチのような線形回帰手法とは違い、決定木では非線形な関係性も捉えることができるため、ビル同士のより細かな差異を推定成約賃料の差異として正しく反映できる可能性があります。

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決定木のイメージ

また、決定木を用いた機械学習モデルは線形回帰によるモデルと同様に、比較的モデルの説明がしやすいという特徴があり、どの説明変数がどのくらい推定成約賃料に影響を及ぼすのかという解釈が比較的容易であることから、まだまだ発展途上である「e-賃料」にとって説明変数の探索を行う際に使用しやすいというメリットを享受できています。
このように、モデルの改善を繰り返し、説明変数と目的変数との関係性をより精緻に把握することにより、今後ニューラルネットワークやディープラーニングのようなさらに高度な機械学習モデルへの応用も視野に入れ、推定成約賃料モデルの開発を行っています。

予測に使用している説明変数例

上述のようなモデルを構築する際に、目的変数、今回であれば成約賃料を説明しうる変数を決定する必要があります。estieでは、この説明変数として大きく、マクロ経済的変数・不動産需給・個別物件情報の3つに分け、それぞれの変数をestieが独自に取得したデータから作成しています。
全ての説明変数を公開することはできませんが、例えば個別物件情報であれば、ビルの規模や築年数、駅からの徒歩分数などを変数として採用しています。

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説明変数と目的変数(賃料)との関係

最後に

以上のように、オフィス不動産の成約賃料を推定するという前人未到でワクワクする仕事をしています。日々モデルの学習に使用するデータの量・質は高まっており、それに伴い推定の精度は上がっていくことが期待されます。現在、推定成約賃料モデルを始めとした様々な機械学習の知見を生かしたプロダクトを作ったり、またそのモデル構築に生きるデータを日々集め、より質の高いものにするためのパイプラインの整備等を行っています。
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